慢性的ストレスで阻害される前頭葉・海馬・脳を守る『成功する子・失敗する子』

【自然な子育て】とは何かー学者たちの答えーストレス『成功する子・失敗する子』

 


『私たちは子どもに何ができるのかー非認知能力を育み、格差に挑むー』ポール・タフ

逆境によるストレスが、発達段階の体や脳にダメージを与えるのである。(略)人間の整理システムは急を要する身体的な非常事態に反応するように進化してきたものである。しかし、私たちは住宅ローンや人間関係や昇進について心配することでそのシステムを何ヶ月者あいだ使い続ける。こうした整理システムの使い方は効率が悪いだけでなく、きわめて有害でもある。その証拠はここ15年以上の間に多く発見されている。HPA軸に、とくに幼少期に負荷を与ええすぎると、長期にわたる深刻な悪影響が体にも、精神にも、神経にもさまざまに出てくるのである。しかしこのプロセスがややこしいのは、わたしたちをかき乱す原因がストレスそのものではないてんだ。原因は、ストレスに対する反応にある。(略)マキューエンによると、ストレスを管理するプロセスこそがー彼はこれを「アロスタシス」と名づけたー体を損なう要因なのである。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』ポール・タフp.44)

アロスタティック負荷を表す数値は厳然たる医療データを反映したものー子ども時代の逆境が実際に体に及ぼした影響、つまりは皮膚の下、体の奥底に刻み込まれたものーなのである。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.49)

どういうことかといったら。

小さいとき、お母さんはー赤ちゃんが泣いた時に抱きしめてあげるように、ぬれたおしめを取り替えてあげるようにーストレスを処理するプロセス通じて、子どもにストレス対処法を伝えているということ。

それは「大丈夫だよ」という一言かもしれない。

毛づくろいすること。
抱きしめてあげること。

やさしくあたたかく
日に日に成長していく子どもの心を尊重する心をこめて

環境による影響の中で子供の発達を最も左右するのは、ストレスなのだ。子供たちは、いくつかの環境要因によって、
長気にわたり不健全な圧迫を受け続けることがある。こうしたストレス要因が子供の心を体の健全な発達を阻害する度合いは、従来の一般的な認識よりもはるかに大きい。
逆境は、とくに幼い時期ほど、体内の複雑なストレス反応のネットワークー脳と免疫システムと内分泌システム(コルチゾールなどのストレスホルモンを作り、放出する内分泌腺)を結ぶネットワークーの発達に強い影響を及ぼす、特にこの時期にネットワークが環境からの信号に敏感に反応するのは、これからの先の長い人生において何に備えるべきか、体に知らせる信号を常に探しているからだ。この先の人生が困難であることが信号によって示されれば、ネットワークはトラブルに備えるための反応をする。血圧を上げ、アドレナリンの分泌を増やして警戒を高める。
短期的に見れば、特に危険な環境では利点もある。「闘争・逃走反応」とも呼ばれる脅威検知システムが作動し、つねにトラブルに備えている状態なので、すぐに反応できる。このように、危険な環境への適応の発達には確固たる理由があるのだ。しかしこの適応が長期にわたってつづくと、かずかずの生理的な問題の引き金ともなる。免疫系がうまく働かなくなり、体重増加の一因となる代謝の変化が起こって、のちに喘息から心臓病までさまざまな病気を引き起こす。さらに厄介なことに、ストレスは脳の発達にも影響を及ぼす可能性がある。とりわけ幼い時期に経験した高レベルのストレスは、前頭前皮質、つまり知的機能を司る最も繊細で複雑な脳の部位の発達を阻害し、感情面や認知面での制御能力が育つのを妨げる。
感情面で見ると、幼い時期に慢性的なストレスを受けた子供はーいまでは大勢の研究者がこれを有害ストレスと呼ぶがー失望や怒りへの反応を抑えることに困難を覚えるようになる。小さな挫折が圧倒的な敗北のように感じられ、ほんのすこし軽く扱われたように感じただけでも深刻な対立関係に陥る。月皇生活では、つねに脅威を警戒し続ける強度に敏感なストレス反応尻手むは、自滅的な行動パターンを引き起こす。けんか、口答え、教室内でのわがままなふるまい。もうすこし目立たないものとしては、クラスメートとのつながりをつねに警戒し、教師や大人から差し伸べられた手を拒むようになる。
認知面でみると、不安定な環境で育ち、そうした環境が生む慢性的強いストレスにさらされた場合、前頭前皮質が制御する、実行機能と呼ばれる一連の能力の発達が阻害される。実行機能は、脳の働きを監督する航空管制官のチームに例えられることのある高次の認知的能力ー作業記憶、自己調整、認識の柔軟性などを含むものーで、これが発達のための神経系の基盤となり、粘り強さやレジリエンスといった非認知能力の支えとなる。不慣れな状況を切り抜けたり、新しい情報を処理したりする際に非常に役立つ、まさに日々の学校生活で求められる能力である。この実行機能がきちんと発達していないと、複雑な指示に集中できず、学校生活にいつも不満を抱くようになってしまう。(『私たちは子どもに何ができるのかー非認知能力を育み、格差に挑むー』ポール・タフp.28)

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ストレスが、子どもの天の才を潰してしまう。

お母さんが子どものストレスを、癒し続ける。それが自然な子育てだ。
子どもはもう、世の中から十分なほどに、ストレスを与えられているから。(もちろん、成長しながら、自分で自分をストレスから守れるようにならないとダメだけど。その方略は人それぞれ)

たまに、お母さんが子供にストレスを与えていることがある。
子供は別のところで、ストレスを自分で、何かしらの方法で、癒すしかない。もしくは、溜め込むか。

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実行機能の働きを試すテストとして有名なものにストループ・テストがある。緑色の文字で書かれた「赤」という単語を見せられ、単語は何色で書かれていましたかと尋ねられる。赤、と答えないためにはいくらか努力が必要で、とっさに赤といいそうになる衝動に抵抗する時に使っているのがこの実行機能なのだ。これはとくに学校で大事なスキルであるといえる。子供たちはつねに矛盾した情報に対処することを求められるからだ。Cという文字はKとおなじように発音されるーSのように発音されない限りは。taleとtailは、発音は同じだが意味が違う。「ゼロ」という概念にはそれ自体にひとつの意味があるが、「1」と並べると全く別の意味を持つ。こうした多種多様なトリックや例外を飲み込むには、物事を認知する際の衝動の抑制がある程度求められる。これは神経学的には感情面の衝動の抑制ーお気に入りのおもちゃの車をほかの子にとられるときに、叩くのを我慢する能力ーと関連のあるスキルだ。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.51)

これはいわば、ルールを飲み込むチカラ。
あそんでいる時に気に入らなくなって「ルールだから!」といわれて、「じゃぁもうやめる!」といって抜けるのと同じかもしれない。
ただ、学校で教わる内容(753システムに基づいた画一的学習内容)が、その子の発達にあっていないだけかもしれないけれども。

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はい、また重要なところです。

実行機能のスキルの中に、短期記憶(ワーキングメモリ)というものがある。今日スーパーマーケットで何をするか、メモをせずに覚えているような記憶だ。学校のお勉強をする上では欠かせないスキルである。で、サイモンという人が実験して手に入れたワーキングメモリの働きを測定した結果を「サイモンのスコア」として次の文を読んでほしい。

エヴァンズトシャンベルクの発見によれば、貧困層の少年が受ける不利益としてはアロスタティック負荷が大きいということの方が重要である。もし別の貧困層の少年がやってきて、その少年の方がアロスタティック負荷が小さかったらー理由はどうであれ、貧しくともストレスの少ない子供時代を送っているとしたらーサイモンの競争で裕福な家の子供と同程度のスコアを出す可能性は十分にある。そしてなぜサイモンのスコアが大事なのかといえば、高校にも大学にも職場にも、ワーキングメモリが成功の鍵となる作業が山ほどあるからだ。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.54)

つまるところ、貧しいから学業成績がでるのではなく、貧しいからストレスがかかり学業が下がるのである。貧しくてもストレスがかかっていなければ、適切な環境次第で、裕福な人と同等の学業成績を残すことができる。

ストレスから子どもを解放する。
これがまず、大切だということ。

お母さんが子どものストレスを、癒し続ける。それが自然な子育てだ。

そして自然な子育てをするための知恵と振る舞いを、僕は、愛と呼んでいる。
愛とは何か?


今年の四月に出たばかりの本。
翻訳されることになるだろう。
その前に僕は読んで、「お母さんと子どもの交換日記」をつくろう。
Coaching Parents of Vulnerable Infants: The Attachment and Biobehavioral Catch-Up Approach

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学校ではなく、お母さんから学ぶことの大切さ

『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』ポール・タフ

生後1ヶ月ほどの間、泣いた時に親からすぐにしっかりとした反応を受けた乳児は、一歳になるころには、泣いても無視された子供よりも自立心が強く積極的になった。就学前の時期には同様の傾向がつづいた。つまり、幼児期に感情面での要求に対して親が敏感に応えた子供は自立心旺盛に育った。エインズワースとボウルビイの主張によれば、親からの暖かく敏感なケアは子供が外の世界に出てゆけるための「安全基地」となるのである。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.68)

子どもたちの高校生活を追ったところ、どの生徒がきちんと卒業するかを予測する際に、知能検査や学力テストの得点よりも、幼少期の親のケアにかんするデータの方が精度が高かった。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.75)

どちらのケースでも、子供が生後まもないうちに親として特定の役割を果たした母親が一定の割合で存在した。そしてその行動ーラットの場合にはなめたり毛づくろいをしたりすること、人間の場合には幼児のサインに敏感に反応することーが子供たちのあげる成果に対して永続する効果を及ぼしている点が共通している。人間でもラットでも乳児のうちに適切な世話を受けた者は、のちにより好奇心や自立心や自制心を持ち、障害にもうまく対処できた。幼少期の育児における母親からの注意深いケアが、ストレスから身を守るためのレジリエンスを育んだ。人生においてふつうに起こりうる困難な事態に直面したとき、何年も後になってからもーオープンフィールドテストや、幼稚園での我の強い子供とのけんかなどからわかるように、人間もラットも同様にー自分なりの主張を行動に移し、自信を持ってまえに進むことができたのである。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.76)

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貯められたストレスが、前頭葉の成長を阻害する。
それはセルフコントロール、ストレスマネージメント能力の発達の阻害要因になる。
『私たちは子どもに何ができるのかー非認知能力を育み、格差に挑むー』ポール・タフ

ストレス心理学者たちも、この現象を生物的な側面から説明している。脳の中で幼少期のストレスから最も強く影響を受けるのが前頭前皮質、つまり自分をコントロールする活動ー感情面や認知面におけるあらゆる自己調節機能ーにおいて寿湯代な役割を果たす部位である。このため、ストレスに満ちた環境で育った子供の多くが、集中することやじっと座っていること、失望から立ち直ること、指示に従うことなどに困難を覚える。そしてそれが学校の成績に直接影響する。抑えることのできない衝動に圧倒されたり、ネガティブな感情に悩まされたりしていれば、アルファベットを覚えるのもむずかしい。(略)多くの場合、ストレスの影響はおもに思考を制御する能力を弱めるかたちで出る。これは「実行機能」として知られる、認知をつかさどる特定の機能が前頭前皮質にあるからだ。(『成功する子・失敗する子-何が「その後の人生」を決めるのか』p.49)

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ストレスに対して、弱い人がいる。
ストレスを感じた時に、どうしたらいいのか、どんな心構えをして生きて行ったらいいのか。
それは、「お勉強」では学べない。

心が大事。

思い出、インドネシアを旅していた時に。。。
「日本はストレス社会だ」と話したら、「ストレスって何?」と言われたこと。

そういう社会も、ある。
ストレスが「自然」になってしまった日本で、どうやって子供を「自然」に育てられるだろうか?

この記事のまとめ

ストレスで「命」が疲れていませんか。

慢性的ストレスはコルチゾールの暴走。脳(前頭葉・海馬)の発達を阻害する。

ストレスに置かれた状況で「勉強」をしても「ほとんど」成果がありません。勉強をする時に使う前頭葉がストレスの負荷で動かなくなっているからです。ストレスにさらされながらも自分をマネジメントするには練習が必要です。(マネジメントできても間違った勉強法をしていたらこれまた望んだ成果がでません)

ストレスの悪循環とは?

本来、適度な(そして多様な)ストレスは、心にとっては成長のきっかけであり、新しいものをつくるチャンスになります。けれども、失敗し続けたり、おもうような成果が出ない、心と現実の摩擦が大きくなると脳は、心を守るために「ストレスと戦うのを諦めて、ストレスを受け流す。それができなければ、ただただ、溜め込む」ようになります。成績が伸びないお子さんはほとんどこの状態です。「学習性無気力」とも呼びます。これを打破するには、よい大人、よい先生、よい環境と出会うしかないでしょう。 長期的なストレス、手に負えない情動にさらされると、本来ストレスに対してより適切な反応をするエネルギーが体に負荷を与えてパンクします。こうなると、「無力」状態です。 癒されずに放って置かれると、心に恐怖が住み着きます。

ストレスにさらされると、副腎の働きによってコルチゾールが放出され、緊急事態に備えるための ホルモンが体内に充満する。このホルモンは、傷を短期間で治癒させるなど、肉体にさまざまな影響 を及ぼす。 通常でも人体には適正レベルのコルチゾールが必要で、このホルモンは代謝を促進したり免疫系を 調節したりする働きを担っている。しかし、コルチゾールの濃度が高すぎる状態が長期にわたって継 続すると、健康が損なわれる。コルチゾール(および関連するホルモン)の慢性的な分泌は心臓血管 疾患や免疫機能障害と関係があり、糖尿病や高血圧を悪化させ、海馬のニューロンを破壊して記憶障 害を起こす場合さえある。 しかし、コルチゾールには、海馬の神経を遮断する一方で、扁桃体を刺激して恐怖をつかさどる神 経の樹状突起の成長をうな がす働きもある。さらに、コルチゾールは扁桃体から送られてくる恐怖信 号をコントロールする前頭前野の働きを阻害する。 コルチゾールの過剰分泌は、神経系に三重の影響を及ぼす。すなわち、調子の狂った海馬は学習能 力が低下し、関係のない現象にまで恐怖の対象を広げてしまう。扁桃体の回路も猛り狂って過剰反応 を起こすが、機能が阻害されている前頭前野はこれを調節することができない。その結果、扁桃体が 暴走して恐怖を喚起する一方で、海馬が何でもかんでも間違って脅威と認識してしまう、という状態に陥る。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.336)

極度の負荷を与えられた場合、PTSDと呼ばれる症状がでます。不安する人たちは、程度の軽いPTSDに悩んでいるということもできるとおもいます。

遺伝子レベルの悪循環

遺伝子とは、37兆個ある細胞がそれぞれ60億個もつ塩基対にかきこまれた情報です。ストレスが大きすぎて(もしくは長期間ストレスにさらされて)メチル化・アセチル化が起こり、遺伝子レベルで「ある特定の反応」しか出せなくなると柔らかい判断ができなくなる。「悪循環」が続く。(人格形成のレベル) 介護のストレスをマネジメントできなかった女性の遺伝子は、傷ついているようです。

とくに注目されたのは、遺伝子レベルのデータだ。介護にあたっている女性たちは、同年齢の他の 女性に比べて、重要な免疫機能の多くをつかさどる遺伝子(GHmRNA)の発現が五〇パーセント も少なかったのである。この遺伝子はリンパ球(体内に侵入したバクテリアを攻撃する白血球)の形 成をうながし、体内に侵入したバクテリアを壊すナチュラル・キラー細胞やマクロファージの働きを 活発にする役目がある。以前の研究でも、ストレスにさらされている女性は小さな傷が治癒するまで の時間がストレスのないグループと比較して九日間も長くかかることが報告されているが、オハイオ 大学研究グループの発見によってこの事実も裏づけられた。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.352)

神経細胞レベルの悪循環

脳は、1000億のニューロンが100万兆箇所でむすびついた神経細胞の脳内ネットワークです。 脳は刺激を受けるごとに神経細胞のつながりを強化する。同じ刺激が入ってくると、ニューロン(脳の神経細胞)は「省エネ」をして同じ反応を返すようになる。「悪循環」が続く。(習慣・癖のレベル)

ストレスと健康の関係で中心的役割をはたしているのは、SNS(交感神経系)とHPA(視床下 部 – 脳下垂体 – 副腎)系だ。人間がストレスにさらされると、SNSとHPAの両方がこれに立ち向かい、緊急事態や脅威に備えるホルモンを分泌させる。しかし、その際に免疫系や内分泌系などに負担がかかり、一時的であれ長期的であれ健康にとって重要なシステムが弱まる。 SNSとHPAの回路は、不快ストレスにさらされたり、幸福な気分になったり、といった情動の 変化によって開いたり閉じたりする。人間の情動は他者から(情動の伝染などによって)大きな影響 を受けるので、ストレスと健康の問題は本人の枠を超えて人間関係へと広がっていく。 人間関係の好不調によって生理機能が変化すること自体は、さほど問題ではない。不調が何年も続 いて生物学的ストレス(専門的には「アロスタティク負荷」)のレベルが上昇し、それによって病気 にかかりやすくなったり症状が悪化したりすることが問題なのである。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.337)

子どもが叶えたい、大人への願い。

残酷すぎる成功法則

一日は二四時間しかなく、使えるエネルギーも限られている。多数の カテゴリーで成果をあげるには、限度を設定しなければならない。一つのカテゴリーに全力を注ぐことで、人生全般で成功をおさめることも不可能なのだ。そして、最終的に一つの質問に行きつく。 

「私は何を望んでいるのか?」 

あなたが自分でそれを決めないと、周囲の世界があなたに代わって決めることになる。家族労働研究所(FWI)のエレン・ガリンスキーは 調査で子どもたちにこう尋ねた。 

「もし君の生活に影響を与える親の働き方を変えるお願いが一つだけで きるとしたら、何を望みますか?」 

最も多かった答えは、親の「ストレスや疲れをもっと減らしてほしい」だった。 

もし、あなたが望むものが仕事と生活のバランス(ワーク・ライフ・ バランス)なら、バリー・シュワルツが私に言った言葉を覚えておいて ほしい。「これで充分」は、だいたいの場合、「充分に満足」なのだ。(『残酷すぎる成功法則』エリック・パーカー)

心の力はストレスで減る

「やればできる!」とか「がんばれ!」というだけだとただのストレスになる。持続力とか、忍耐とかいうけれども、心が折れたら仕方がない。無理難題を言われたら、勉強が嫌いになってもしかたがない。

大学生には、一筆書きで複雑な図形を描くというパズルが出題され、試行錯誤でできるように何枚もの髪が配られた。実のところ、パズルはどうやっても解けない仕組みになっていた。研究者は、大学生がさじを投げるまえに、むずかしくてストレスのたまる課題をどれだけ長く続けられるかを確かめようとしていた。すると、「誘惑のない」学生、つまりチョコチップ・クッキーを我慢せずに済んだ学生は、課題に19分を費やし、問題を解こうと34回の妥当な試行錯誤を繰り返した。一方、大根を食べた学生はそれよりも我慢がたなかった。わずか8ふんであきらめてしまったのだ。(略)実は、セルフコントロールを使い果たしてしまったのだ。心理学者たちは、これと似た数々の研究で、セルフコントロールが消耗資源であることを発見している。(略)「セルフコントロールは消耗資源である」という認識は重要だ。なぜなら、「セルフコントロール」といっても、悪い習慣(喫煙、クッキー、アルコール)と戦う意志力のような狭い意味ではないからだ。より幅広い範囲の自己管理を示している。 (『スイッチ!ー「変われない」を変える方法』p.18)

子どもが、そして大人も暮らし方、生き方がなかなか変わらないのは、心がいつも疲れているせいではないかと私はおもう。自分で自分を変えようとおもうなら、「いつもの繰り返し」にならないような時間、心のあり方が大切になる。(そして誰かに変えてもらおうとするが、成功しない) 休む時間、睡眠時間、心が楽になる時間、刺激のない時間、、、宿題でせわしなく暮らしていては、心は弱くなりっぱなしになってしまわないか。

セルフコントロールを消耗しているとき、人々がすり減らしているのは心の筋肉だ。これは、発想豊かに考えたり、集中したり、衝動を抑えたり、ストレスや失敗に耐え抜いたりするのに必要なものだ。つまり、大きな変化を引き起こすのに必要な心の筋肉そのものを消費しているといってもいいのだ。したがって、怠け者で頑固だから変わるのがむずかしいというのは、完全にまちがっている。実際にはその額だ。変わるのがむずかしいのは、体力を消費しているからだ。これこそ「変化」の二つ目の意外な事実だ。怠けているように見えても、じつは疲れ切っている場合が多いのだ。(『スイッチ!ー「変われない」を変える方法』p.20)

ストレスでワーキングメモリは低下する。

ストレス、刺激に対して適切な、健康的な振る舞いを返せないことが、前頭葉の機能を低下させます。すると、刺激に対して扁桃核のいいなりになってしまい、健康的な思考・判断ができず、負のスパイラルに陥るケースもあります。

たとえば情動が思考能力を阻害する場合を考えてみよう。住宅展示場でモデルハウスを見てま わる際のチェック・ポイントや数学の証明問題に使う定理など、課題を達成したり問題を解決す るために不可欠な情報を一時的にためておく記憶を「ワーキング・メモリー(作業記憶)」という。脳のなかでワーキング・メモリーを扱うのは前頭前野だ。ところが辺縁系と前頭前野がつな がっているために、辺縁脳で不安や怒りなどの強い情動が起こると神経に雑音がはいって前頭前 野のワーキング・メモリーを保持する能力が妨害されることがある。感情が波立つと「ちゃんと 考えられない」状態になったり情緒不安定な状態が続くと子供の学習能力が低下したりするの は、このためだ。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.53)

ストレスにご注意。

この記事のまとめ

ストレスは「心」もすり減らします。

幼児期のストレスは致命的

ストレスは簡単に言うと「刺激」です。これにどう反応するか、どう対処するかでストレスが「学び」になるのか、ただただ「圧倒」されるものになるかの分かれ道です。 そして幼児期の環境によって、その後のストレスへの反応が決まってしまうという研究結果が出ています。

生まれたての赤ちゃんがどう扱われるかによって、この視床下部ー下垂体ー副腎系の構造が影響を受けるということが、50年以上も前に行われたラットの実験からわかっていた。同じ系統のラットであっても、毛づくろいをしたり、体をなめたりして子どもをかわいがる親と、そうでない親がいる。どちらの親に育てられるか。乳児期における育児の仕方が違うだけで、成体になってからのストレスに対する反応が異なる。生後一週間、よくかわいがる親に丁寧に育てられたっラットは、ほったらかしの親に育てられたラットに比べて、ストレスにさらされたとき、ACTH、そして、コルチゾールの血中濃度が低い。すなわち、ストレスに強いラットに育つのだ。(『エピジェネティクスー新しい生命像をえがく』仲野轍 p.108)

このネズミの実験は、遺伝子の本を読むとなんどもでてきます。お母さんがストレスが多く、おしめを変えるように子どものストレスをとってあげることができないと、子どもは「刺激(ストレス)に対して敏感」になり、外の世界を「恐ろしく」感じてしまうかもしれません。

脳内のセロトニンの作用を増強する薬は、うつ病に効果があることから、セロトニン系の機能低下がうつ病の原因にもなるとされている。そして、セロトニンは、たとえば親に毛づくろいをしてもらったりという、気持ちの良い状態になると分泌が高まるのである。毛づくろいのような快楽刺激によって、海馬の細胞がセロトニンの刺激を受け、ある転写因子のGR制御領域への結合が増加する。その転写因子が直接DNAメチル化を制御するわけではないのだが、結合の増加がなんらかのメカニズムを介してDNAの低メチル化を誘導すると考えられている。(略)「三つ子の魂百まで」ではないけれど、生まれてすぐにきちんと可愛がられるかどうかで、セロトニンを介したエピジェネティクス制御が影響を受ける。このような、環境に対するある種の適応というものが、生後すぐの段階でのみ生じる。それが、生涯にわたってストレスに対する反応を左右してしまう。(『エピジェネティクスー新しい生命像をえがく』仲野轍 p.110)

やらされ勉強の功罪

「宿題はやるもんだ」といって作業としてやっている子どもたちがいる。大勢いる。やらなければ、罰が与えられる、親からもブーブーいわれるといったプレッシャーも感じているでしょう。 このような状況では、成績は上がる見込みはありません。塾に行っても成績が伸びない理由です。 勉強するということをプレッシャーに感じないような、大人の言葉かけであったり、勉強で感じるストレスを取り除いてあげて、子供がリラックスする環境が大切です。 ですが・・・プレッシャーだらけなので、子供は大変なのです。課題の量が、昔よりもダントツに増えていること、わかりますか? お母さんの経験したことのない世界を、子どもはサバイバルしています。

「勉強どころではない」子どもたち

「神経がすりきれる」というのは、神経学的にいうと、情動面の動揺によって脳の管理センターの働 きが妨げれられている状態のことだ。こういう状態になると、人間は明晰な思考ができない。教室で も、職場でも、良い雰囲気が大切なわけである。 脳に視点を移して説明するならば、学校でも、会社でも、好成績があげられるかどうかは脳の状態 が最高の能力を発揮できるスイートスポットにあるかどうか、ということになる。不安が働くと、脳 はスイートスポットからはずれてしまう。 品質管理の神様と仰がれた故E・エドワード・デミングの決まり文句は、「不安を取り除け」だっ た。デミングは、不安が職場を凍りつかせることを知っていた。不安があると、労働者は発言を控え、 新しいアイデアを発表せず、他者とうまく協調できず、まして仕事の質を向上させることなど望むべ くもない。同じことは、教育の場にもあてはまる―不安は精神を疲れさせ、学習を邪魔する。 疲れたときの脳の反応は、非常事態に備えようとする肉体の反応を反映している。ストレス下に置 かれると、肉体を危機に対応させるべく、HPA(視床下部 – 脳下垂体-副腎)系が急激に覚醒する。 これに伴ってさまざまな生物学的反応が起こる中で、前頭前野に代わって扁桃体が主導権を握る。扁 桃体は反射的に働くので、「裏の道」が主導権を握っているあいだ、思考する脳の出番はなくなる。 思考する脳ではスピードが遅すぎるのだ。 脳の意思決定が「裏の道」にゆだねられると、思考能力が落ちる。プレッシャーが強ければ強いほ ど、人間の能力や思考はうまく働かなくなる。扁桃体が優勢に働いているあいだ、学習能力は低下す る。ワーキングメモリに情報を一時的にためておく能力も、柔軟かつ創造的に反応する能力も、意識 を集中する能力も、効率的に計画し組織する能力も、すべて低下する。神経科学で「認知障害」と呼ぶ状態である。 わたしの友人は、こんな話を聞かせてくれた。「職場で最悪だった時期は、リストラで人が毎日の ように『消えて』いった時期だ。机の上に『一身上の都合により』というメモを残して、人がいなく なる。あの不安感が漂う中では、だれも集中できなかった。仕事が何も片づかなかったね」 当然だ。不安が大きくなるほど、脳の認知能力は落ちる。精神的に不安定な状態では、気が散って、 認知作業に振り向けられる能力が減ってしまう。強い不安に影響されて意識を集中できるスペースが 小さくなってしまうため、新しい情報を取りこむ能力が低下し、新しいことを考え出す余裕もなくな ってしまう。パニックに近い状態は、学習や創造の敵だ。 不快ストレスに対応する神経回路は、扁桃体から右前頭前野につながっている。この回路が活性化 すると、人間の思考は不快ストレスの原因に執着してしまう。不安や怒りに気をとられた状態では、 知性の働きが鈍る。悲しみに沈んでいるときも同様で、前頭前野の活動レベルが低下してアイデアが 浮かびにくくなる。不安や怒りにとらわれているときも、悲しみにとらわれているときも、脳の活動 はスイートスポットからはずれてしまう。 退屈も、脳の働きを不活発にする。意識があちこちにさまよい、集中力が失われ、意欲が消えてし まう。長すぎるミーティング(ほとんどのミーティングがそうだ)でぼんやりとテーブルを眺めてい る人の姿は、こうした状態を表わしている。学生のころ、窓の外をぼんやりと眺めて過ごした経験は、 だれにもあるはずだ。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.396)

 

この記事のまとめ

ストレスから身を守る「お守り」をつくりましょう。

悪循環の回路を変えるには?

新しい記憶(神経細胞レベルのつながり)を作り、固定された学習回路を開くしかありません。 そのためには新しい記憶を与えられる環境を整える(人間関係・生活環境)しかありません。前頭前野を使って、刺激を再解釈したり、刺激に対する反応を変えていくという「学習」が必要になります。「もう何をしても無理。何もしない。これでいい。塾なんていかない。人と関わらない」というお子さんもいます。これまでに学んできたことの「結果」がそうなったわけなので、まずは受け止めてあげてほしいとおもいます。

マギル大学の研究者らは、母ラットの特定の行動が、子ラットのDNAの配列に起こるメチル化に影響を与えることを明らかにした。子ラットがストレスを受けた時に母ラットが示す温かく繊細な対応、とくにリッキング・アンド・グルーミングと呼ばれるなだめるような行動が、DNA上で海馬を制御する部位のメチル化を抑制するのだ。海馬は、成長した時にストレスホルモンを処理する部位だ。まだ検証段階だが、人間の場合にも同様の効果があるとみられている。マギル大学の研究は、多くの親の(そして子ども時代を振り返ることのできる人々の)直感を裏づけている。親のほんの小さな配慮が、非常に深いところからーきわめて重要な遺伝情報に関わる部分まで掘り下げるようにしてー子供の発達を助けるのだ。(『私たちは子どもに何ができるのかー非認知能力を育み、格差に挑むー』ポール・タフp.33)

もしまだお子さんが小さければ、、、今、です。子どもをみて、おむつが濡れていることに気がつくように、同じようにストレスを感じ取ってあげて、オムツを変えるのと同じように、ストレスを排出してあげること。

親密な人間関係においては、互いに助けあって不快ストレスをコントロールできる。親が子供を守 るのと同じだ。ストレスを感じたり気持ちが動揺したとき、こうした人間関係に支えられていれば、 互いに助けあって不快ストレスの原因を考え、より賢明な対応を工夫し、状況を整理し把握すること ができる――どのケースにおいても、不健康な神経ホルモン系の連鎖を回避することができる。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.365)

リラックスする

子供が一番リラックスできる時間は、遊びでしょう。小学生なら実際に一緒に遊べるのですが、中学生にもなると一緒に遊ぶのは難しくなるような気がします。だから例えば言葉をかわしながら、たわいのない話をしながら、笑いながら、もしくは悩み相談をしながら(相談してくれるようになるまで時間はかかりますが)、大変高度で知的な活動である「お勉強」の準備をします。 お母さんがリラックスをしていれば、子どももリラックスします。情動は、感染するのです。

子マウスを舐めたり世話したりする母マウスの行動は、人間でいえば共感、情動チューニング、接 触ということになるだろう。ミーニーの推論のようにマウスの研究結果が人間にもあてはまるとすれ ば、人間の場合も子育てのしかたがもって生まれた遺伝情報を変えるほどの影響を及ぼすことになる。 親が子供をどう育てるかによって、子供の遺伝子発現が左右されるわけだ。つまり、子育てにおける 小さな愛情は子供の発達に長期的影響を及ぼし、人間関係は脳の成長に重要な役割をはたすのではないか、ということだ。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.233)

一緒にやる

小さい頃、子どもが何かに不安になっているとき、まごついているとき、うまくできなかった時、「一緒に」やった経験があるとおもいます。ただ「問題解説」をするだけではなく(高いものに手が届かなかったら代わりに取ってあげるだけではなく)、「どうしてこまっているの?」という情動的な関わりから初めて、子どもを持ち上げて、子ども自身に取らせるということをしたり、「できたね」と一緒にわらったりすることが大切です。そうすると記憶は一連の物語として残ります。頼れる誰かがいる、手伝ってくれる人がいる、気持ちを表現できる人がいることが、子どもの情動的な成長の助けになります。

ひとりでやる

ひとりでできることを、小さなことでもやってみましょう。できたことは「できた!」こととして、きちんと評価されます。「目標」が「期日までに成績をここまで上げる」というものであれば、時間制限があるので「本気度」が問われます。が、「大丈夫、私はこれで大丈夫だ」と思えればよい、という人もいます。オトノネを卒業するタイミングは、人それぞれです。一人でできるようになる、助けて欲しい時は、来る。そういう関係をお母さんやお子さんとつくっていきたいとおもいます。

「勉強すること自体がストレス」のお子さん

心理学の領域では不安や恐怖、怒りに対する心の免疫力を高めるために「系統的脱感作法」という方法をとることがあります。リラックスした状態で「情動的に困難な状況」を想起して、ストレスを感じたらその都度「脱感作」します。そうすることで、以前は情動的に対処困難だった刺激が平気になってくる、という方法です。勉強するということ自体がストレスになっているお子さんには大切なアプローチです(つまり、勉強と「気晴らし」を組み合わせることです)。お子さんは人間関係で悩んでいませんか?もしくは人間関係を続けるために、脳を酷使していませんか?習い事をやりすぎて、休む時間が少ない、というお子さんは勉強をストレスの一部にしているかもしれません。

「勉強はするが成績が伸びない」お子さん

IQが高いとちょこっと勉強しただけで成績が伸びる子がいます。けど高校生になってから、中学生になってから、とたんに勉強が苦手になる子がいます。「やればできる」勉強法を自分で編み出せるお子さんは勉強法を工夫します。けど「やってもできない」勉強法(悪循環)にはまってしまう子もいます。塾に通っていても同様です。共感をベースにして、目と目を合わせてお子さんの状況、能力、思考に適したフィードバックを誰かにかけてもらわないと、一人ではなかなか難しいでしょう。おとのねさんもそうでした。

絶対に無理なこともある

例えば、コーヒーが苦手な人は、、、、コーヒーを飲んだら眠れなくなる!ならば、寝る前には飲まない!ようにすればいいです。 同じように、「こうなったらストレスになる」という環境から身を遠ざけることは大切な作戦です(上の例なら、コーヒーを飲まないということ)。 学校に行くことがストレスになって、耐えられない子がいます。課題が追いつかずに先生からは叱責されたり、テストの点数を比較されたり、過度のストレスに耐えている子もいます。その度合いが、お子さんと、お母さんとでは違うのです。お母さんの時代とはストレスの量が桁違いの学校に、お子さんは通っています。 もしお子さんが「飲まない!」と言ったら、「飲まなくてもいいよ」と言ってあげてほしいとおもいます。(その前に、「飲まない!」に至った物語に耳を傾けてほしいとおもいます)  

話せば、わかる。

情動をマネジメントする方法に、「話す」ということがある。ある人にとっては「愚痴る」だとしても、とにかく「話す」ことで頭の中を整理して「なんだそういうことか」と自分で納得して「ポイッ」と捨てることもできるし、「大したことないな」とおもうきっかけになるのかもしれない。 共感してもらって、気持ちが楽になる、ということもあるだろう。

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』のなかで、ロビン・フッドが若者に向かって言う。「なあ、 お若いの、おぬしの悩みを話してごらん。ザックバランにな。話をすれば心の悲しみも、いくぶんはまぎれるものだ」(村山知義・村山亜土訳)。庶民の知恵も、捨てたものではない。不安な心 から重荷を取り除くことは、妙薬に匹敵する。ロビン・フッドのアドバイスを科学的に裏づけた のが、サザン・メソジスト大学の心理学者ジェイムズ・ペニベーカーだ。ペニベーカーは一連の 実験によって、心の悩みは吐露させてしまったほうが医学上有益なことを証明した。実験の方法 は、きわめてシンプルだ。被験者たちに、「生まれてこれまでに最も深く傷ついた経験」につい て、あるいは現在頭を悩ませている問題について、一日十五分ないし二十分かけて文章を書くと いう作業を五日ばかり続けてもらうのだ。被験者は、自分の書いた文章を提出したくなければし なくてよいことになっている。 この告白は驚くべき効果をもたらした。被験者の免疫機能が高まり、実験後六ヵ月間の通院回 数が減り、病欠日数が減り、なかには肝臓の酵素分泌が活発になった例さえあった。しかも、文章につづられた心の動揺が大きかった人ほど、免疫機能の改善が著しかった。実験から、悩みを 吐露する際の「最も健康的な」パターンが見えてきた。まず最初に、悲しみや不安や怒りなど心 を苦しめている感情を思いきり表現してしまう。そのあと、数日かけて物語を組み立てながら、 深く傷ついた経験に何らかの意味を見いだしてゆくのだ。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.276)

自分を語る

自分の人生を自分で語る、自分のストーリーを自分が生きる、というのはSQの高い状態です。 強い情動(PTSD)を克服する、という文脈で下の文章は書かれて居ますが、「自分で語り直して自己改革する」という意味で、私はSQに関連することだと思って居ます。

PTSDを起こすほどの 甚大な心的外傷も、再学習によって治療できるかもしれないということだ。子供の場合、「パーディー」のようなゲームを通じて心的外傷が自然治癒するケースもある。 子供たちは「パーディー」のようなゲームをくりかえすことによって、ショッキングな事件を安 全な遊びとして再体験しているのだ。ゲームによって治癒にいたる道筋は二通りある。ひとつ は、不安感の少ない状況でショッキングな記憶を再現することによって記憶に対する恐怖感を減 少させ、記憶に正常な反応を結びつけること。もうひとつは、想像の世界で悲劇に現実とはちがう明るい結末を与えること。たとえば、「パーディー」のゲームの中で子供たちが逆にパーディ ーを殺してしまうという展開だ。筋書きを変更することによって、悲劇の際の無力感を克服する のである。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.317)

自分自身の語り直しです。

 

 

この記事のまとめ

「脳」の傷は、「心」の傷です。

ストレスに弱い海馬

海馬を守るために、学校で子どもが選ぶ選択肢は「勉強などはこの世にはないもの」「あるのは、ただそれとなく心を無にする作業」にすることかもしれません。

情動のマネジメントが、「学び」の基礎であるという意味が伝わるでしょうか。

成績が上がらない大きな理由だと私はおもっています。

 

ちなみに、ストレスによって「思考力・判断力」もガタ落ちします。

ストレスと脳(東邦大学HP)こちらもご覧ください。

中脳で扁桃体の近くにある海馬は、学習で中心的役割をはたす部分だ。海馬は「ワーキングメモ リ」を長期保存の形に書き換える働きをする。これが学習の本質だ。新しい情報をすでに知っている 情報と結びつけると、人間の脳は何週間も何年間もその情報を記憶しておくことができる。

授業で聞いたり本で読んだりしたことを理解するたびに、この神経経路が働く。事実、人間が生ま れてから経験したことはすべて、海馬の働きによって記憶として保存されている。記憶の維持には、 さまざまな神経がかかわっている。実際、ニューロンの新生―脳が新しいニューロンを作り、他の ニューロンと結びつけること―のほぼ大半が海馬でおこなわれている。

海馬はとくに不快ストレスに弱い。コルチゾールの悪影響を受けやすいからだ。ストレスが長期に わたって続くと、コルチゾールが海馬内のニューロンを攻撃し、ニューロンの新生が不活発になった り、ニューロンの総数が減ったりする。これは、学習に甚大なダメージをもたらす。たとえば、重症 のうつ病や強度のトラウマによってコルチゾール分泌過多の状態が続くと、海馬のニューロンは大幅 に減ってしまう(精神状態の好転とともに、海馬はもとの大きさに戻る)。レベルは低くても、スト レスに起因するコルチゾール過多の状態が長引けば、ニューロンの成長が阻害されるようだ。

コルチゾールは海馬の働きを阻害する一方で扁桃体を刺激し、その結果、注意が情動のほうへ向い てしまう。新しい情報を取りこむ能力は制限され、知識ではなく不快ストレスの原因が記憶として刻 まれてしまう。化学の授業でいきなり指名されてうろたえた翌日、その生徒は黒板の前でパニックに 陥ったことは鮮明に覚えてても、出された問題は頭に残っていないに違いない。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.404)

この記事のまとめ

「心」を大切にすることで、「命」はよろこびます。

共感の力を阻害する社会で生きるために阻害要因を取り除く

心の平穏さがなくては、共感は働かない。

心が開かれていなくては、共感は働かない。

共感が人間に備わった自然の一部であるように、焦りや不安といった情動も人間の自然な一部です。

心が開かれていますか。

自分の心を守る暮らしが、相手の心を守ることになるのです。

心にも「あそび(よゆう)」が必要なのです。

ある午後のこと、プリンストン神学校で四〇人の学生が短い説教の実技試験に臨むことになってい た。四〇人のうち、半数は聖書から無作為にテーマを与えられ、残りの半数は「よきサマリヤ人」の 話をテーマに与えられていた。傷ついて道端に倒れていた旅人がいたが、「信心深い」はずの人々は 見て見ぬふりをして通り過ぎ、サマリヤ人だけが立ち止まって見知らぬ旅人を助けた、という話だ。

神学生たちは一五分ごとに一人ずつ待合室を出て、別の建物にある試験場へ向かうことになってい た。これが愛他主義の実験の一環であることは、神学生たちには伏せられていた。

神学生たちが試験場へ向かう通路に面した戸口に、一人の男性がかがみこんでいた。あきらかにど こかが痛いらしく、うめき声を上げている。四〇人の神学生のうち、二四人は苦しげな声を無視して さっさと通り過ぎた。これから「よきサマリヤ人」のテーマで説教の実技試験を受けようとしている 学生とそれ以外のテーマを与えられている学生を比べても、前者のほうが苦しむ男性を助けようと立 ち止まる割合が高いわけではなかった。 神学生たちにとって、重要なのは時計の針だったのだ。実技試験に遅れそうで焦っていた一○人のうち、立ち止まったのはたった一人だった。時間に余裕があった一○人のうちでは、男性を助けよう としたのは六人だった。

愛他主義に関係する多数の要因のうち、ひとつの決定的要因は、時間的余裕の有無だろう。共感の 度合いは、どこまで相手に注意を集中して感情面でつながりあえるか、による。もちろん、能力も、 やる気も、注意を向ける対象も、人によって異なる。不機嫌なティーン エージャーは母親の小言には 耳を貸さないが、ガールフレンドとの電話では脇目もふらず話に集中する。説教の実技試験に急いで いた神学生が苦しむ男性に注意を向けることができなかったのは、試験のことで頭がいっぱいだった うえに急いでいて、男性に注意が向かず、まして助ける気も起らなかったからであろう。

世界のどの大都市でも、人通りの多い通りを歩く人々は他人に目をやったり挨拶したり助けようと したりすることが少ない。「都市の恍惚」に陥っているからだ。混みあった街頭で人々が自分のこと だけに夢中になってしまうのは、とりあえず自分を取り巻く過剰な刺激に対して身構えようとするか らだ、と、社会学者は解釈している。そのためには、犠牲にしなければならないものもある。助けを 求める人の声も、他の雑音とともに無視せざるをえないのだ。ある詩人が書いたように、わたしたちは「街の騒音に目をくらまされ耳をふさがれている」のだ。 (『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.82)

ある時、都内の高校生からこんな話を聞いた。

「今日、人身事故があったってアナウンスがあって、昔はドキドキしていたんだけど、反応していたら身が持たないやっておもって、何も感じないようにした」

心を閉ざさないと心を守れないような世界に私たちは生きているのかもしれない。

ワーキングメモリ(一時的 に保持しておける記憶の量)は前頭前野にあり、注意力の配分に大きな力をもっている。ワーキング メモリのおかげで、頭の中にある記憶を探りながら発言したり行動したりする一方で、外からはいっ てくる信号に対処する、というようなことが可能になるのだ。

余裕(あそび)がないと共感は生まれない

忙しくて、、、、疲れていて、、、、仕事のことで頭がいっぱいで、、、、という心では他の人の心に気づくことができない。

だれでもそういう状態になることがある。

そういう時は、「ああ、疲れているな」と自覚をして休んだらいい。注意を払う余裕がないときは、自分の能力が低下していることを認めて、ゆっくりしたらいいのです。

逆に、共感してほしい時は、「ねぇねぇ!」とか、なんとかして注意を払ってもらうような何かをするといいのです。

相手に100%耳を傾ける、注意を注ぐことによって生理的同調が高まり、情動も同じ方向にむくことができます。

課題が殺到して脳が雑多な問題に対処しなければならなくなると、注意力にしわ寄せがくる。扁桃体が発する不安信号が前頭前野の主要部分を占領し、処理しなければならない目前の課題から注意力 を奪ってしまう。ストレスは注意力にしわ寄せをもたらす、ということだ。外国へ来て緊張し肩に力 がはいっているだけで、注意力は低下する。 自然の摂理によって、同種の生き物どうしは円滑にコミュニケーションできるよう脳が作られてい る。たとえば、ある種の魚では、求愛期になるとメスの脳からホルモンが分泌されて一時的に聴覚回 路が作りなおされ、オスの呼び声の周波数にぴったり合うようになる、という。

同じようなことは、生後二カ月の人間の赤ちゃんにも見られる。母親が近づいてくると、赤ちゃん はそれを察知して本能的におとなしくなり、息を詰めるようにして母親のほうへ顔を向け、母親の目 と口に注目して、母親のほうから聞こえてくる音に耳を向ける。そのあいだじゅう、赤ちゃんは眉を ひそめ、びっくりしたように口を大きく開けている。これらはすべて、赤ちゃんが知覚能力を高めて 母親の言動に注目しようとしているしぐさなのだ。

相手に注意力を集中するほど、相手の内面を鋭敏に感じとることができる。より迅速に、より微妙 な信号まで、より曖昧な状況においても感じとることができる。逆に、ストレスが大きければ、それ だけ相手に対する共感能力は落ちる。要するに、あらゆる形の自己埋没は共感を阻害する要因となる。当然ながら、そのような状態では 同情は期待できない。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.87)

ストレスによりオキシトシンがでなくなる悪循環

経済は「競争」では繁栄しない

ひと口に不愉快な日といってもその内容は千差万別だが、オキシトシン不足を招くもっとも一般的な原因はストレスだ。ストレスのせいで、どんな人でもときどき一時的に互恵的な行動をとれなくな ることがある。なにも、ロケット弾の攻撃にさらされたり、必死になって仕事を探したり、入院中の 子どもの心配をしたりしていなくても、ストレスによってオキシトシンの分泌が減り、心の狭いふるまいを見せうるのだ。

ストレスには基本的に慢性と急性の2種類があり、どちらも前述の「ヒトオキシトシン媒介共感 (HOME)」 システムを妨げる。「ロケット弾攻撃」型のストレスは、「エピネフリン」というホルモン(別名「アドレナリン」)の分泌を促し、このホルモンが闘争・逃走反応の準備を整えさせる。もうすっかりおなじみの話だろうが、エピネフリンは心拍数と血圧を上げ、呼吸を早める。このホルモンのレベルが高まると、嘔吐や失禁を引き起こすことさえある。これは、私たちの祖先が捕食者から 逃げるのに、体を軽くする必要があった時代には役に立つ反応だったが、ストレスの原因が飛行機に 乗っていて乱気流に遭ったとか、上司と決定的に意見が合わないとかいう場合には、あまり助けにならない。 

現代社会に生きる人の大半は、深刻でドラマチックなストレスではなく、すっかり日常生活の一部 になっているストレスを長時間相手にしている。この手のものは慢性ストレスと呼ばれ、「コルチゾール」という化学物質を体内で分泌させる。人間の体が、数百万年前の東アフリカの平原という環境 に合うよう進化、適応したことを考えると、このコルチゾールというホルモンも、人間が脅威から逃 げるのを助ける働きをしていたのだろうが、エピネフリンより持続的なかたちで機能する。行動を起こすようまず一撃を与えるのがエピネフリンなら、次に登場するコルチゾールは、上昇した心拍数と 血圧と速くなった呼吸をそのままに保つ。まるで、あなたの村が鉄砲水に襲われ、子どもたちを安全 な場所に避難させるためには何時間も必死で頑張らなくてはならないとでもいうように。コルチゾー ル はまた、貯蔵脂肪からグルコースを遊離させ、エネルギー源として燃焼できるように筋肉に供給す る。かつてはとても有効だったこの適応のマイナス面は、現代によく見られる軽度でかつ持続的な不 安によってこの適応の機能が作動した場合、高い心拍数、高血圧、高グルコースなどの反応が継続し たままになり、じつにさまざまなかたちで有害に働くことだ。具体的には、心臓病や糖尿病を招くだ けでなく道徳的な行動にも障害を起こす。

「善循環」が阻まれて共感が弱まり、他者への積極的な気遣いなどどこかに飛んでいってしまう。これについて進化が提供するロジックは、子どもを助けようとするより前に自分の酸素マスクをつける ようにという、飛行機の安全のしおりに書かれた言葉の裏にある論理的根拠と同じだ。生きるか死 かの瀬戸際では、高度な利他的精神や、良心の呵責という高尚な感覚でさえ、最善の選択肢ではない のかもしれない。

そして、人の道徳性を引き下げるのに、それほどのストレスはいらない。神学生を対象にしたある 実験では、彼らのようにことのほか利他的で敬虔な若者でさえ、授業に遅刻しかけているときには、うめき声をあげているホームレスを助けるために足を止める者は少ないということがわかった。 

過度のストレスを受けてコルチゾールが多量に分泌されると、もっと有害な結果にもつながる。長期的な「共感疲労」になりかねないのだ。現代生活の煩雑さに悩まされているうえに、マスコミに過剰にさらされている今、多くの人にそれが起こっていると私は思う。この世にはやたらに多くの衝突や困難があり、自分たちに目を留めてほしいと要求する人たちや主張があまりにも数多く存在するた め、私たちは時として、ただ膝を抱えて丸くなっていたくなる。ストレスの多い刺激にたえず見舞わ れていると燃え尽きてしまうことがある。最前線での任務があまりに長く続くと、救命医や緊急対応 要員が精神的に燃え尽きてしまうのとちょうど同じだ。

優れた回復力を持っている人もいるが、ちょっとしたストレスで共感疲労を起こす人もいる。また、 孤独感からくるストレスだけで生死にかかわる経験をしていると感じる人もいるが、私たちの太古の祖先にとって、現にそれは生死にかかわることだった。このように、孤独感でさえHOMEシステム を鈍らせることがあり、どうしても援助の手を差し伸べなくてはならないときに、優しく相手を気遣 えないことがある。だが、何よりも有害な情動は敵意だ。 (『経済は「競争」では繁栄しない』ポール・J・ザック p.159)

薬でなんとかなるか

私はいくつかの理由で、オキシトシン注入は自閉症の現実的な治療法にはなりえないと思う。第一 に、注入はひどく不快な経験だ。第二に、効果の持続時間が短い(ただし、「カルベトシン」という、 効果がもっと長続きするオキシトシン製剤が、現在臨床試験中だ)。そして何より、問題がオキシトシン受容体の不足や機能不全のときは、オキシトシンのレベルを上げるだけでは、たいした効果はな いだろう。

もっと有望なのは、オキシトシン受容体の数を増やすことだ。私が検査した神経科と精神科の患者 のほぼ全員が、ほんのわずかではあってもオキシトシンを分泌している。受容体の数が増えれば、そ のモラル分子が結合する場所も増え、その結果、すでに利用できるオキシトシンを最大限に活かせる ようになる。このアプローチは齧歯類では有効性が立証されており、現在、人間での臨床試験に入る ところだ。人間でも有効性が証明され、食品医薬品局(FDA)の承認が得られれば、自閉症はもと より、社会不安(社交不安)障害や心的外傷後ストレス障害の改善にも役立つかもしれない。

オキシトシン受容体の数あるいは感度を増すという方法には、社会的な行動を調整する際のこのモ ラル分子の機能がそのまま維持されるという利点がある。いわば、スイッチをオンにしたりオフにし たりできるのだ。社会的な関与を増すために受容体の数を増やすと、オキシトシンの効果は通常のか たち、つまり信頼や愛情の合図といった適切な社会的刺激によってオキシトシンの分泌が促されると いうかたちで発揮される。たんに吸入器によって脳をオキシトシンであふれさせるだけでは、車のア クセルをいっぱいに踏み込むようなもので、およそ繊細とは言えないし、周囲の状況に対する感受性 もない。オキシトシンをただ一気に注入されると、患者は人をやたらに信頼しやすくなってしまい、 信用詐欺のカモになったり、もっとひどい危害を被ったりする可能性が高くなる。

他者とつながりを持てない点ではなく、他者とつながることに極度の不安を覚える点が問題となっ ているときにも、オキシトシンのアンバランスが関係しているかもしれない。私は最近マサチューセ ッツ総合病院で、社会不安障害の患者に信頼ゲームをしてもらう実験の手伝いをした。こうした患者 はプレイヤーBのとき、社会不安障害の症状のない対照群の人よりも返金額が6パーセント少なかっ た。この結果は、社会不安障害の患者も、オキシトシンの基準値がはるかに高いという事実とつじつ まが合う。つまり、彼らの体もすでにオキシトシンであふれていたので、刺激に対してオキシトシン の急増という反応ができなかったのだ。社会不安障害の患者は、オキシトシンの基準値が高い人ほど、 社会的なかかわりについて強い不満を抱いていると報告している。

こうした不安を和らげるために、HOMEシステムをターゲットとする薬の話が出ているが、私の 好みとしては、やはり薬ではなくハグだ。 (『経済は「競争」では繁栄しない』ポール・J・ザック p.175)

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