ワーキングメモリ容量の個人差があまりにも大きすぎる件『問いからはじめる発達心理』
ワーキングメモリ容量の個人差があまりにも大きすぎる件『問いからはじめる発達心理』
ワーキングメモリとは、パソコンでいうと「メモリー」にあたり、その場その場でいろんな作業をこなす際につかう場所だとおもったらいい。正確にいうと、「メモリー」は短期記憶と呼ばれておりワーキングメモリーは、情報を同時に観察できたり、掴もうとする手と目の数だと思ったらいい。
ワーキングメモリが大きいと、一度にいろんな作業ができる。途中で手順を忘れたりしないで、あれこれと組み合わせたり、「あ、そういえば」とかいうこともある。
ワーキングメモリが小さいと、「ん?今、何してたっけ?」という状態になったりする。いくつもの指示をだすと頭が混乱するタイプだ。
だからワーキングメモリは「作業記憶」とも呼ばれている。
ワーキングメモリが小さいと、考えを深めることが難しい。といえるのかもしれない。
考えるための目と手が少なければ、情報の中で溺れてしまう。逆に、情報が限られていたら、もしくは一つづつ扱うなら、良いのかもしれないが。
僕はそういうことだと理解している。
で、ワーキングメモリを統計的にデータ化した表、個人差の大きいことを知った。
この表を見てください。
何が読み取れるだろうか?
7歳児の上位10%は10歳児の平均と一致する一方で、7歳児の下位10%は4歳児の平均を下回っている。
つまり7歳児のクラス全体をみれば、ワーキングメモリだけをみれば、4歳から10歳の子がいる、ということになる。
別の見方をすれば。
16歳の子でも、下位10%なら、10歳の平均レベルのワーキングメモリしかないということになる。
また10歳でも、上位10%なら、16歳の平均レベルのワーキングメモリをもっていることになる。
また別の見方をすれば。
4歳児でも、6歳児の平均並みの子がいる。つまり、データにはないが、おそらく(恐らくは)4歳児で2歳児の平均なみの子がいるのではないか。
うーん。
まずは、芸術をはじめましょうか。
ところでAD/HDの子とワーキングメモリの相関関係が気になる。
因果はあるだろうか。
言語遅滞とワーキングメモリの関係が気になる。
因果があるんだろうか。
うん。相手の心を読むのとワーキングメモリの関係はあるんだろうか?
仮説を立てて、検証して、仮説を立てなのして、検証して、前提を疑って、とか、そういうデータ処理は、ワーキングメモリと関係しているんだろうか?
うーん。
研究したい。

遺伝子とワーキングメモリと環境『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン
ワーキングメモリとは?
ワーキングメモリ、という言葉をよく聞きます。簡単にいえば、同時に幾つの作業(記憶や処理)を脳内でできるか、ということです。これまた(主に)前頭前野が担っている機能です。
例えば、暗算をするときにこの機能は使えそうです。また、一つのことをしながら、頭の中で「別のこと」を考えてつなげる時にも使えそうです。他の人がやったことと、自分のやったことを比較するときにも使えそうです。
前頭前野であるため、ストレスの影響をもろにうけます。そうしたら、勉強どころではありません。
たとえば情動が思考能力を阻害する場合を考えてみよう。住宅展示場でモデルハウスを見てま わる際のチェック・ポイントや数学の証明問題に使う定理など、課題を達成したり問題を解決す るために不可欠な情報を一時的にためておく記憶を「ワーキング・メモリー(作業記憶)」という。脳のなかでワーキング・メモリーを扱うのは前頭前野だ。ところが辺縁系と前頭前野がつな がっているために、辺縁脳で不安や怒りなどの強い情動が起こると神経に雑音がはいって前頭前 野のワーキング・メモリーを保持する能力が妨害されることがある。感情が波立つと「ちゃんと 考えられない」状態になったり情緒不安定な状態が続くと子供の学習能力が低下したりするの は、このためだ。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.53)
具体的にもう少し
お勉強の例でいえば、「この条件があります」「この条件があります」「二つの条件をみたすにはどうしたらいいでしょうか」といったもんだい、英語でいえば「and」とか「because」とかが入ると文章を理解しにくいかもしれません。「あれ?なんだったっけ?」という話になってしまいます。
日常生活では「これこれしたあとにこれこれして」ということが理解できず、後ろの「これこれ」しかできなかったり。小さい頃は、みんなそうでした。この時点で、何かのきっかけ(ストレス)で、前頭前野の発達が止まってしまった、と考えることもできます。
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「開放性」とワーキングメモリ『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康
パーソナリティー特性の5つの因子、ビッグファイブ の中でひときわ特徴的なものに「開放性」があります。いわゆる「芸術的センス」を問うものであり、5つの因子の中で知能と唯一相関関係がみられるものです。以下の引用を読むと、遺伝子がもつ「開放性」のチカラとワーキングメモリーには深い関係があるように思えます。
ネアンデルタール人や彼らと同時代のホモ・サピエンスが石器を作るのに用いていた技法は、ルヴァロワ技法と呼ばれます。ルヴァロワ技法では、材料となる石の周囲を割って形を整えてから、端っこを叩いて割り、鋭い形状の剥片をつくります。ネアンデルタールは20万年の間、技法を進化させることなく、同じような石器を作り続けました。しかし、ホモ・サピエンスの石器はそのあとどんどん形が変わっていき、用途が分化したり、芸術的な要素を持つようになりました。やがて石器にとどまらず、青銅器や鉄器を作るようになり、スーパーコンピューターまでつくってしまったわけです。この違いは何なのでしょうか?
ここからは私の推測というか空想になるのですが、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスでは、脳のワーキングメモリーが違ったのではないか、それが両者に大きな知的能力の差を生んだのではないかと考えられます。ワーキングメモリーとは同時に処理できる概念の数を示しています。(略)ネアンデルタール人が石器を作るのに使ったルヴァロワ技法もなかなか高度であり、いまの私たちが教えても一朝一夕では習得できません。彼らは手元にある石と、その関係性の2つを同時にイメージすることができたからこそ、高度な石器を作れたのでしょう。しかし、ホモ・サピエンスは、目の前の意思とその完成形に加えて、これを応用したらどうなるかということまで考えることができます。これはワーキングメモリーが3つ以上ないと不可能と思われます。
(『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康 p.210)
人間の、神秘です。
本題。遺伝を超えるには。
ワーキングメモリが低ければ「学力」には限界がきます。さて、ここで問題です。ここが問題です。
お子さんのワーキングメモリを「高める」のがいいのでしょうか?お子さんのワーキングメモリを「補う」のがいいのでしょうか?「高い」ことにこしたことはない、とおもえば単純ですが、この二つのバランスをとるように関わって行くことが大切だと僕は思っています。いろいろ本を読んでみて、「ワーキングメモリー」そのものが高まる事例を探してみますね。
遺伝子を超えるには?遺伝子を孤立させないで、遺伝子を助け合わせる。これがいいのではないかとおもっています。とても、人間的で。
ワーキングメモリーを高めるトレーニングをしたら、挫折するかもしれません。遺伝の影響は大きいのです。人間として、今の自分が安心して過ごせる環境をつくる方が、自身にも繋がるし、将来にも役立つ「スキル」として蓄積されるでしょう。「できない自分は悪いんだ」と思ってしまったら、最後です。
環境(ストレス)が遺伝子を破壊する。
いくら遺伝的に「よい」ワーキングメモリを持っていたからといって、環境が台無しにしてしまうこともある。
EQの大切さを、何度でも強調したい。
情動が乱れて注意が集中できなくなると、当面の課題に関連する情報を頭にためておく知的能 力(認知科学で「作業記憶」という)がうまく機能しなくなる。作業記憶の内容は、電話番号の 数字を一時的に記憶するというようなありふれたものから、小説家が思い描く物語の構想のよう に複雑なものまで、さまざまだ。作業記憶は人間の知的活動をとりしきる最高の管理機能で、完 結した文章で話すことからややこしい論理命題に取り組むことまで、すべての知的活動を可能にしている。作業記憶を担当するのは、前頭葉皮質だ。そして前にもふれたように、前頭葉皮質は 情動が集まってくる場でもある。大脳辺縁系から発して前頭葉皮質へ収斂する神経回路が情動の ストレスに翻弄されると作業記憶が阻害され、私自身が微積法の試験で経験したように、まとも な思考ができなくなる。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.128)
目の前にお化けがいて、冷静に数学の足し算のドリルができる人などそうそういない。とおもう。
情報を選ぶ・つなぐ・活用する『脳のワーキングメモリを鍛える!』
ワーキングメモリってなに?
この本では、感情知性といろいろ混ざって書かれているためわかりにくい。
ぼくはこれを「心の中に、世界を判断し見渡したり、情報を保持する人の数」だとおもいたい。
感情知性は、「相手の立場に」なりながら「自分の行動を」考える必要がある。
「ワーキングメモリに関する魅力的な発見をもうひとつ、お伝えしよう。心理学者が呼ぶところ の「心の理論」にもワーキングメモリが欠かせないことがあきらかになったのだ。「心の理論」と は、「自己」というものへの気づきであり、さらには、「他者は自分とは異なる仕方で世界を認識 しているかもしれない」という意識であり、だからこそ、異なる環境に自分を適応させる必要が あるという「気づき」のことである。トロント大学のフィリップ・ジェラゾは、ワーキングメモ リの発達は子どもの自意識の芽生えと密接な関係があると述べ、ステファニー・カールソンは、子 どもが他者の動機を理解するうえで、ワーキングメモリが欠かせないことを一連の実験で示した。
ワーキングメモリが自己認識に欠かせないのは、ワーキングメモリがあるからこそ「自分を所 有しているのは自分」であり、「自分を統合しているのも自分」であるという認識に注意を向けら れるからだ。ワーキングメモリは、自分自身という認識を維持し、自分は他者ではなく、他者も 自分ではないことを理解する手助けをする。著名な神経科学者ホアキン・フステルによれば、ワー
キングメモリは自己認識ともっとも密接な関係がある認知プロセスだ。「自己認識」は子どもの 「心の理論」の発達における第一段階であり、たいてい二歳前後に始まる。第二段階は、他者は自 分とは異なるものの見方をしているかもしれないという「他者の心への気づき」である。「他者の 心への気づき」は、四歳から五歳で生じる。研究によれば、ワーキングメモリが強いほど、他者 が独自の心をもち、自分とは異なるものの見方をしている可能性があることを理解するそうだ。
哲学の入門講座を受講したことがある人なら、「なんじ自身を知れ」、そして「コギト・エルゴ・ スム」すなわち「われ思う、ゆえにわれあり」というふたつのフレーズを覚えているだろう。ソ クラテス(前者をよく繰り返した)とデカルト(後者の提唱者)はふたりとも、自己認識こそが知識 の出発点であると論じた。自分自身のことがわからなければ、他者のことも世界のこともわから ない。「心の理論」もまた同様の道すじをたどると、心理学者たちは考えている。自己の存在を認 識するのが第一ステップで、それができるようになってから、外界の他者のものの見方を意識す るようになる。そして、この道すじに欠かせないのがワーキングメモリだ。というのも、ワーキ ングメモリがあるからこそ、人は自分のものの見方を維持し、他者はこんなものの見方をしてい るだろうと想像し、脳を活性化するからだ。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.178
次のような困難な状況での判断は、周りを「見」ながら、何をすべきかを「考え」る必要がある。見るものはたくさんある。考えることもたくさんある。
この時にもエッセンシャル思考、優先順位、大切なことを念頭におくなどといった手法はあれど、「人」がたくさんいることが最も役に立つだろう。
感情知性の話になるが、「我慢できない」は「我慢しようとしている自分を励ます」自分がいない状態だと言えるだろう。ワーキングメモリという無機質な言い方とは、合わない気がする。
彼をつかまえ、ジェットスキーに乗せ、エンジンを全開にした。だが、ふたりは威嚇する波から 逃れることができず、ついに水中に叩きつけられた。次々に襲いかかる波が、ふたりに激しく打 ちつける。大波に呑まれているうちに、ハミルトンのボードのフィンが、リックルの脚の筋肉を 骨まで切り裂いた。見る間に海中に血が流れだす。すぐに止血帯で処置しないと、リックルの命 はない。だが救急用品が装備してあるジェットスキーは、十数メートルも先に流されてしまった。 ハミルトンは、ふたたびワーキングメモリのスイッチをいれ、この難局に対処しなければならな かった。 | ハミルトンのワーキングメモリは、少なくとも五つの情報に対処したはずだ。迫りくる波、自 分の痛みと疲労、友人の激痛、止血帯の必要性、そして止血帯をこしらえる方法。彼のワーキン グメモリはこうした情報に優先順位をつけ、止血帯の必要性と、それをつくる方法を見つけるこ とを最優先事項にした。視線を下げると、伸縮性のある自分のウェットスーツを止血帯に使えそうなことがわかった。そこで彼はウェットスーツを脱ぎ、リックルの傷口に縛りつけた。これで 少し時間に余裕ができたものの、こんどは友人を岸まで連れていかねばならない。
この状況で岸までずっと泳いでいくのは無理だと判断し、ジェットスキーを使うことにした。と ころが、エンジン始動に必要な電気コードがない。リックルが海に放りだされたとき、失くして しまったのだ。ハミルトンはまたもや手持ちのものでコードの代用品をつくらなければならなく なった。こんどはいっそう難題だ。グローブコンパートメントをあけてみると、iPod のイヤホ ンが見つかった。彼はそれを解体し、なんとかエンジンを始動させることができた。 生死がかかった状況で、いったいどうやってハミルトンはふたたびワーキングメモリのスイッチをいれることができたのだろう? 恐怖に凍りついてしまうような状況で、なぜ彼は機転を利 かすことができたのだろう?『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.156
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個々の認知特性(学習スタイル)は違う
教育研究者のあいだでは、学校の成績には学習スタイルが大きく影響を及ぼすという考え方が 広がりつつある。学習スタイルの重要性を強調する研究者たちは、個々に適した学習スタイルで 学ぶのが最善であると述べている。一般的な学習スタイルの考え方には、学生を「言語型」と「視 覚型」に分ける方法と、「分析型」と「全体把握型」に分ける方法がある。
- 言語型――言語を基盤とした学習法を好む。
- 視覚型――絵や映像などを利用した学習法を好む。
- 分析型――学習中、細部に注目するのを好む。
- 全体把握型――学習中、ものごとの全体像を把握するのを好む。
『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.109
ワーキングメモリは親の教育レベルとは関係ない
さて、このふたりの少年がIQテストを受けた場合、ホルへよりドミニクのほうが成績がいい ことは、あなたにも簡単に想像がつくはずだ。これは、われわれにとっては意外でもなんでもな い。IQは、親の収入と密接な関係があるからだ。親の稼ぎが多いほど、子どものIQは高い。同 様に、親の受けた教育レベルが高いほど、子どものIQも高い。というのも、高い教育を受けた 親のほうが、IQテストに反映されやすい経験を子どもにさせることができるからだ。では、ワー キングメモリのほうはどうだろう? 「われわれは、イギリス政府のプロジェクトの一環に関わっていたとき、経済的に豊かな家庭の 子どものほうがそうでもない子どもより、ワーキングメモリのスコアがかならずしも高いとはか ぎらないことに気づいた。幼稚園児のワーキングメモリを調べたあと、親の教育レベルと園児の ワーキングメモリのスコアとを比較したところ、このグループで(そしてほかの研究でも)見られ た明確なパターンは、子どものワーキングメモリのスコアは、親の教育レベルとは無関係という ことだった。ママやパパが博士号をもっていても、大学に進学していなくても、子どものワーキ ングメモリに差異はないのである。
『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.112
子どもが教室の中で使うワーキングメモリ
読み書き計算にもワーキングメモリが使われる。
文字を音節で捉える、それに対応する文字を思い出す、まとめて書く。
単語の意味、音、形象を再生しながら書く。文章であれば文の意味を理解しながら書く。
らしいがよくわからない。
指示の数は、「language development」で海外サイトを見るとよくでてくる指標だ。
時間の認知が発達すると、指示の数をこなせるようになる。
ワーキングメモリか??
計算は
12 + 9 = ?
この算数の問題は、しごく簡単な問題に思えるかもしれないが、幼い子どもにとっては、なか なかの難題である。というのも、答えをだすには複数の手順を踏まなければならない、すなわち、 ワーキングメモリに頼らなければならないからだ。もし、あなたがこれまで足し算に四苦八苦し たことがあるのなら、右記の足し算を解く手順を説明した次の箇条書きを読み、なるほど、見かけよりむずかしいと納得できるはずだ。脳のなかでは、こんな手順を踏み、計算がなされている。
ステップ1
2と9をとりだし、それらを頭頂間溝に送り、計算の第一部を実行する。
ステップ2
1という答えをだし、それをワーキングメモリにおさめる。
ステップ3
ワーキングメモリを使い、1(1の十の位)をとりだし、1(2の十の位)に足す。
ステップ4
ワーキングメモリに追加で2を記憶させ、記憶情報を更新する。次に2と1(1 の一の位)を組み合わせ、答えをだす。。。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.119
話を聞きながら理解する、作業しながら話を聞くなどは、今の高校生でもできていない。あれは癖だろうか。心の仕組みなのだろうか。(選択制難聴?)
子どもたちは教室で、次のような課題をおこなう際、つねにワーキングメモリを活用しなけれ ばならない。
・級友が近くでなにかささやいても、目の前に鮮やかなピンク色のリュックがあっても、気を そらさないようにする。そして複数の段階を経なければならない課題のなかで、いま、自分 はどの段階の作業をしているのか、つねに意識する。
・課題を終えるために必要な情報――数字、文字、単語を利用し、作業を進める。
・一定時間、情報を保持する。同時に、できるだけ早く作業を終わらせる工夫をする。
子どもたちには処理しなければならない情報のタイプがいくつかある。そして、読む、書く、計 算するといった学習の基本を学ぶには、ワーキングメモリがきちんと機能しなければならない。
『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.115
ADHDという現象とワーキングメモリ
ADHDの児童は、活発すぎる運動皮質(運動野)をもっている場合が多い。だから小刻みに 身体を動かしたり、飛び跳ねたり、叫んだりしやすくなる――それも、もっともふさわしくない タイミングでそうしてしまう場合が多い。なんとか静かにしていられるとしたら、それは彼らの ワーキングメモリが必死で行動をコントロールしているからだ。とはいえ、そのあいだ、ワーキ ングメモリは行動を抑制するのにかかりきりになるため、新たな考え方を理解したり、黒板に書 いてあることを写したり読んだりする手助けまではできない。ワーキングメモリは、ふたつの任 務を同時にはたすことができない。学習に集中するか、行動を抑制するか、ふたつにひとつだ。
(略)
一〇〇人の児童のワーキングメモリと、障害をもたない児童のワーキングメモリとを比較したと ころ、ADHDの児童の大半にワーキングメモリの低スコアが見られた。この発見は、脳画像を 調べたところ、ADHDの児童の前頭前皮質が比較的小さかったという事実とも整合する。と うのも前頭前皮質の大きさは、おそらくワーキングメモリの働きに影響があると考えられている からだ。
これまでのところ、ワーキングメモリの弱さがADHDの一因であるという確たる証拠はあ がっていない。とはいえ、ADHDの子どもはワーキングメモリが弱く、ワーキングメモリが弱 いとADHDが悪化するという連合関係はあるようだ。
『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.123
自閉症とワーキングメモリ?
自閉症の慈善団体の協力を得て研究を進めたところ、自閉症の子どもは言語を処理する際に必 要な情報をすべて記憶にとどめるのが困難であることがわかった。社会的相互作用には、本来、言 語が欠かせないことを考えれば、そして人間のコミュニケーションはおもに話し言葉のやりとり に頼っていることを考えれば、自閉症の子どもが社交を苦手とするのは無理もない。
われわれはまた、自閉症の生徒が細かいデータや細部を見ることに時間を使いすぎ、全体像を 見るのが苦手であることにも気づいた。たとえば自閉症の生徒に、ある文章が伝えている内容の 真偽を判定し、同時に、文章の最後の単語を覚えておくようにと言ったとしよう。「犬はギターを 弾くことができます」(Dogs can play guitars.)という文章を読みあげたところ、ある生徒は長いあいだ考えたすえ、ようやくこう答えた。「ええ、あなたは犬に教えることができます!」 その 力のこもった口調から、文章の最後の単語を覚えるというふたつめの課題を、彼がすっかり忘れ ていることがわかった。
自閉症の生徒の脳画像を調べたところ、脳梁が比較的小さいことがわかった。脳梁は、右と左 のふたつに分かれた脳の半球をつなぐ神経線維の太い束である。脳梁は、情報を脳の片側から反 対側へと動かす役割を担っている。つまり、脳梁が小さい自閉症の学生は、情報を伝達する際に 一車線の道で対処していることになる――ほかの学生は四車線の高速道路で対処しているという のに。当然、情報が目的地に到着するまでに長い時間がかかる。さらに考えごとに集中しすぎた 結果、自閉症の子どもの脳ではまさしく交通渋滞が起こるのだ。
ということは、自閉症の子どもたちのワーキングメモリのスコアは、例外なく低いのだろうか? そうではない。ワーキングメモリの強さは、その児童が自閉症スペクトラム (焼板にわたる自閉症の連続 )」のどのあたりに位置するかで決まる。たとえば高機能自閉症の学生のワーキングメモリのス コアは、平均的なものかもしれない。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.126
ワーキングメモリは独立して使用可能なネットワークの単位?(CPUのコア数?)
ワーキングメモリの形成は、母親の妊娠から始まる。子宮のなかで胎児が成長し、発達するに つれ、胎児の前頭前皮質も成長し、発達する。初期の神経細胞は基本構造だけだが、その後、複 雑につながり、コントロールセンターが形成され、ワーキングメモリができあがる。新生児が誕 生する頃、前頭前皮質には人生で最大数の神経細胞がある。その後、子どもの成長とともに神経 細胞は死につづけるが、一六歳になる頃には数が安定する。人生の初期にあまりにも神経細胞の 数が多いと、問題が生じる場合がある。たとえば二〇一一年、エリック・クーチェスンらは、自 閉症の子どもの前頭前皮質には六七パーセント以上も過剰な神経細胞があることを発見した。 いっぽう、健康な前頭前皮質の場合は、胎児の頃によけいな神経細胞がとりのぞかれ、残りの神 経細胞が急速につながる。そして誕生後、そのつながりは急激に増大する。 ワーキングメモリは、このつながった神経細胞から、非常にすばやく形成されるらしい。わが 家の次男は幼児の頃、いつでも新しいお話を聞きたがった。
『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.175
ワーキングメモリは30歳でピーク?
成人になると、ワーキングメモリはようやく完全に成熟する。健康な脳の発達に欠かせない髄 鞘 形成も、この時期に完了する。髄鞘形成とは、ミエリン鞘という白い保護膜で脳細胞の突起 (神経線維)をおおう過程だ。ミエリンは白質とも呼ばれており、電気信号が伝わる速度を速める。 髄鞘形成は脳の後部で始まり、ゆっくりと前方に向かう。ワーキングメモリの所在地である前頭 前皮質は、ミエリンで補強されるのがもっとも遅い部位であり、前頭前皮質でミエリンが形成さ れると、ワーキングメモリも強化される。われわれの研究結果からも、ワーキングメモリは二〇 代を通じて発達を続け、三〇代でそのピークを迎えることがわかっている。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.187
任天堂の脳トレゲームはワーキングメモリを鍛える効果があるか?ーない
二〇一〇年の調査で、アメリカの心理学者フィリップ・アッカーマンは、五〇歳から七一歳の 被験者に、任天堂の脳トレ・ゲームを四週間以上、プレーしてもらった。彼はとくにワーキング メモリ・テストを意図したわけではなかったが、この長期にわたるトレーニングにもかかわらず、 文章を完成する、言葉を類推する、時間制限のあるタスクをおこなうなどの認知テストを実施し たところ、その結果にはなんの改善も見られなかった。
もっと近いところでは、日本の研究者、野内類が、六○代から七○代の被験者に任天堂の脳ト レ・ゲームを週に五回、四週間にわたり、プレーしてもらった。二〇一二年の彼の研究によれば、 ゲームで遊んだ成人は、認知テストの結果、実行機能 〔期很に関加。 せた。だが、記憶した数を逆唱するなどのワーキングメモリ・テストにおいては改善が見られな かった。こうした研究結果をまとめると、次のような結論がでる。さまざまな脳トレ・ゲームを 楽しめば、そのゲームの腕は上がるだろうが、その結果、ワーキングメモリが改善されるという 証拠はいまのところあがっていない、ということだ。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.226
エッセンシャル思考にも通じる、「メモリーを有効に利用する方法」
ポルガーのプレーのもうひとつの大きな特徴は、本人の話によれば、自分が望む結果からスター トすることだという。チェックメイトから始め、いま現在の盤面の状態までさかのぼって考える のだ。プロセスをさかのぼって考えるには、ワーキングメモリが必要となる。だがポルガーの話 によれば、結果からさかのぼって考えれば、ワーキングメモリが考慮しなければならない手の数 を減らすことができる。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.251
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睡眠しましょう。
ワーキングメモリを鍛える?いたずら書き
習慣5 いたずら書きをする
これまで、授業中や会議中にいたずら書きをしている現場を見つかったことがあるだろうか? あったとしても、心配ご無用。いたずら書きが、情報の理解をうながしていたのかもしれないの だから。経済成長率といった新たな情報を理解する際には、ワーキングメモリが必要となるが、授 業や会議が長引くと、ワーキングメモリがすり減ってしまう。とくに退屈なプレゼンを聞いてい るときには、たとえその情報が重要であっても、頭のなかに入ってこない。ところが、いたずら 書きをすることでワーキングメモリを稼働させれば、情報の記憶に役立てられるという研究結果 が報告されている。
イギリスの心理学者ジャッキー・アンドレイドは、しばらく退屈な会話に耳を傾けてください、 でも内容はいっさい覚えなくて結構ですと、被験者に伝えた。そして被験者の半分に、いたずら 書きをするよう伝え、あとの半分にはそう言わなかった。テープに録音された会話の再生が終わ ると、アンドレイドは被験者にあやまった。ほんとうは会話の内容を思いだしてもらいたかった のです、と。そして会話で挙げられた人名だけでなく、場所も思いだしてくださいと頼んだ。そ の結果、いたずら書きをしていた人たちのほうが、人名や場所をよく覚えていたことがわかった。
この「いたずら書き効果」は、いたずら書きをすることで、ワーキングメモリが注意散漫にな るのを防ぐからだと思われる。いたずら書きは、あなたのワーキングメモリを少なくとも「覚醒」
している状態に保つ。だからあなたは白昼夢に耽ることなく、注意力を維持できる。そのうえ、い たずら書きはワーキングメモリの資源を大量に使わないため――いたずら書きにはたいした集中 力も努力も要さない本来の目的に意識を払いつづけることができるのだ。 『脳のワーキングメモリを鍛える!』p.310
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